弁護士などによりますと、女性などは3年前から去年にかけて「歯科医院のモニターになれば報酬を支払うので、マウスピースを使った歯科矯正を実質無料で行える」と誘われて都内の会社と契約を結んだということです。
しかし報酬の支払いが滞り、多額のローンを抱えることになったうえ、ほとんどの歯科医院が閉院して治療が中断されたため、かえって歯並びが悪くなるなどの被害が生じたと主張して、歯科医院や契約を結んだ会社などにあわせて2億6000万円余りの賠償を求めています。
この歯科医院などをめぐっては同様の被害を訴える患者たちがことし1月にも東京地裁に訴えを起こしていて、原告の数はあわせて300人あまりにのぼっています。
契約を結んだのはコロナ禍だったおととし8月。マスクで口元が隠れている間に歯並びをよくしたいと考えていたところ「歯科矯正のモニターを募集している」という情報をSNSで見て問い合わせました。 対応にあたった男性から「症例を集めるのに協力してくれればモニター代を支払うので、治療費は実質的に無料になる」と言われ、ローンを組んで治療費をいったん全額支払ったということです。
150万円のローンが残っていた関口さんは何が起きたのか真実を知りたいとSNSで検索してみると、ほかにも多くの人が突如支払いを止められ、困っているとつぶやいているのを見つけました。 「この人たちとつながれば何かできるかもしれない」と感じ、SNSの「オープンチャット」という機能を使って匿名で話し合いができるグループを作り、情報を共有しないかと呼びかけたといいます。 参加者は徐々に増え、話を聞いてみると、ほぼすべての人が関口さんと同じ、または系列の歯科医院の患者で、似たような説明を受けてモニター契約を結んでいました。 さらにその後、歯科医院が突然閉院し、治療が中断されたということで、関口さんをはじめ、チャットのメンバーからも歯並びがおかしくなったなどの訴えが相次ぎました。 消費生活センターなどに相談した人もいましたが「仮に会社を訴えても裁判費用のほうが高くなりますよ」などと言われたということで、解決策を見つけられずにいました。 チャットでの話し合いを重ねるうちに、関口さんは集団訴訟を起こせないかと考えるようになりました。 複数の人が一緒に訴えを起こせば、証拠を共有できるほか、裁判にかかる費用も1人あたりの負担を軽くすることができます。ただ、チャットでつぶやいてもこれまでの経緯から疑心暗鬼になっている人もいて「集団訴訟の話も詐欺ではないか」、「あなたのことは信用できるのか」といった心ないことばを投げかけられることもあったということです。 それまで匿名でやりとりしていた関口さんですが、信用してもらうために顔や名前を明かしてオンラインでの説明会を繰り返し開き、裁判への参加を呼びかけました。
関口さんは「矯正をして思い切り笑えるようになりたかったのに、歯が気になって笑顔も作れません。治療費が返ってきただけでは足りないと思っています。自分1人では限界がありますがいろいろな人が集まることで限界を超える情報を得ることができました。1人で困っている人がほかにもいるのではないかと心配しています」と話しています。
消費者トラブルの多くは被害者どうしのつながりがないため、集団訴訟を起こす場合には弁護士などが被害者を探し出し参加を呼びかけることが一般的で、今回のように被害者みずからがつながり、訴訟を起こしたケースは珍しいということです。 被害者が被害回復を訴えられる制度としては、佐々木弁護士が副理事長を務める「消費者機構日本」など国の認定を受けた消費者団体が被害者に変わって訴訟を起こし救済をはかる制度が7年前に設けられましたが、賠償金を確実に支払える相手でないと制度の活用は難しいのが実情だといいます。 佐々木弁護士は「いまの制度には限界がある中で、見ず知らずの被害者どうしがSNSでつながり訴訟に発展させた。被害者救済に向けた新たな可能性を感じさせる」と話しています。
去年4月から12月末までに寄せられた相談は2464件で、前の年の同じ時期の1853件に比べ率にして30%余り多くなっています。 歯科医師などでつくる日本矯正歯科協会の和島武毅 会長は「コロナ禍でマスクで口元が隠れている間に歯並びを治したいと歯科矯正をする人が増えていると感じている。一方で、中には歯科矯正に関する専門的な知識や経験が乏しい歯科医師もいて、トラブルになるケースもある。矯正治療を受ける場合には担当の歯科医師から治療費などについて十分な説明を受けてほしい」と話しています。
会社側「歯科医師が全責任」 歯科医師「自分は関係ない」
SNSの「オープンチャット」機能でつながった各地の患者たち
SNSでつながり訴訟へ 弁護士「被害者救済へ新たな可能性」
「美容医療サービス」に関する相談 近年増加傾向に