多彩たさいな球たま種しゅをどのように組み合くみあわせてバッターに対たいじするか。素早すばやい判断はんだんが試ためされる投打とうだの駆け引かけひきに魅力みりょくを感かんじ、続つづけてきたといいます。

「部活ぶかつの環境かんきょうが整ととのっていて、全国ぜんこく大会たいかいを目指めざして頑張がんばっているよ」

憧あこがれの先輩せんぱいと、同おなじ高校こうこうで同おなじ夢ゆめを追おいかけたいと決意けつい。去年きょねんの春はる、兵庫ひょうご県けん姫路ひめじ市しにある姫路ひめじ女学院じょがくいん高校こうこうにスポーツの特待とくたい生せいとして入学にゅうがくしました。

そして、その夢ゆめに向むけて練習れんしゅうに打ち込うちこむ日々ひびを支ささえてくれたのが両親りょうしんたち家族かぞくでした。

「高校こうこうでも全国ぜんこく大会たいかいを目標もくひょうに毎日まいにち練習れんしゅうをしていました。中学ちゅうがく時代じだいは弟おとうとと妹いもうとがまだ幼おさなくてコロナの影響えいきょうもあったので、両親りょうしんが試合しあい会場かいじょうに来くることはあまり無なくて、もっと自分じぶんがソフトボールをしているところを家族かぞくに見みてもらいたいと思おもっていました」

去年きょねん9月つき、地区ちく大会たいかいの試合しあい会場かいじょうでのことでした。

ユニフォームを自宅じたくに忘わすれたとことに気付きづき、あわてて母親ははおやに電話でんわで相談そうだん。

一方いっぽう、いきさつを母親ははおやから知しらされた顧問こもんは腹はらを立たてます。その際さい、顧問こもんは母親ははおやに「一いち発はつどつきますよ」と“通告つうこく”したということです。

「自分じぶんが一番いちばん悪わるいと思おもっていたので、怒おこられることは覚悟かくごしていましたし、たたかれて当然とうぜんだと考かんがえていました。たたかれた時ときは痛いたいというより、このあとの試合しあいへの影響えいきょうや、自分じぶんのせいでチームの空気くうきを悪わるくしてしまったことへの申し訳もうしわけなさで頭あたまがいっぱいでした」

「『消きえろ』とか『お前おまえがいなくても試合しあいは成り立なりたつ』ってずっと言いわれ続つづけました。帰かえっている途中とちゅうにいろいろ考かんがえて、このまま顧問こもんのもとで部活ぶかつを続つづけることは無理むりかもしれない。でも、ここでやめたら応援おうえんしてくれている家族かぞくやチームメイトの期待きたいを裏切うらぎることにならないかと悩なやんで、部活ぶかつをやめるくらいなら電車でんしゃに飛び込とびこもうという変へんなことを考かんがえてしまいました。帰宅きたく後ご、お母おかあさんに『部活ぶかつをやめたい』と伝つたえました」

生徒せいとは、ほおをたたかれた影響えいきょうで口くちを開あけたり食事しょくじをしたりするのが難むずかしくなり、医療いりょう機関きかんからは全治ぜんち約やく1か月かげつの「外傷がいしょう性せい開口かいこう障害しょうがい」との診断しんだんを受うけました。

学校がっこうは体罰たいばつについて調査ちょうさを行おこない、生徒せいと側がわに謝罪しゃざい。顧問こもんは懲戒ちょうかい免職めんしょくとなりました

「自分じぶんが悪わるいんだっていうのを繰り返くりかえし考かんがえる生活せいかつでした。学校がっこうに行いってもしんどい気持きもちが続つづくだけなら、辞やめた方ほうが立ち直たちなおるにはいいかなと思おもって。でも、同おなじ目標もくひょうを共有きょうゆうする友達ともだちとの学校がっこう生活せいかつは、半年はんとし間かんでもたくさん思い出おもいでがあります。そんな友達ともだちや先輩せんぱいと一緒いっしょにいられなくなることは、学校がっこうをやめるとき一いち番ばんに頭あたまをよぎりました」

ソフトボール漬づけの毎日まいにちから、自宅じたくでパソコンの画面がめんを前まえに授業じゅぎょうや課題かだいに取り組とりくむ日常にちじょうへと変かわり、複雑ふくざつな思おもいを抱かかえています。

（女子じょし生徒せいと）

「あの日ひ、もう少もうすこし違ちがった指導しどうをしてくれていたら、今いまはこうはなってはいなかったと思おもいます。これまで部ぶ活動かつどうをしていた友ともだや先輩せんぱいが私わたしのいない場所ばしょで活躍かつやくしているのを見みていると、一緒いっしょにできたら楽たのしかったんだろうなと思おもうことがあります」

生徒せいとは、指導しどうに名なを借かりた暴力ぼうりょくや暴言ぼうげんは、被害ひがい者しゃのその後そのごの人生じんせいに大おおきな影響えいきょうを与あたえることを知しってほしいと訴うったえます。

「レスリングの道場どうじょうで監督かんとくが体からだが吹っ飛ふっとぶほどの平手打ひらてうちをした」

「ハンドボールの監督かんとくが選手せんしゅに、殺ころすぞ、帰かえれと大声おおごえで怒鳴どなっているのを目撃もくげきした」

これらは、スポーツの現場げんばでの暴力ぼうりょくや暴言ぼうげんに関にかんする相談そうだんを受け付うけつけている「日本にっぽんスポーツ協会きょうかい」に寄よせられた訴うったえです。

「新型しんがたコロナウイルスの影響えいきょうで一時いちじ的てきに相談そうだんは減へりましたが、スポーツの現場げんばで活動かつどうが本格ほんかく的てきに再開さいかいしたためか件数けんすうも増ふえています。しかし、これが実態じったいを反映はんえいした数字すうじなのか、まだまだ潜在せんざい的てきな被害ひがいが隠かくれているのかは分析ぶんせきが必要ひつようです。近年きんねんは、指導しどう者しゃから『頭あたまが悪わるい』とか、『お前おまえなんか使つかわない』などといった人格じんかくを否定ひていするような暴言ぼうげんに関にかんする相談そうだんが増ふえているのが特徴とくちょうです」

ただ、情報じょうほうや相談そうだんを寄よせた人ひとの内訳うちわけで見みてみると約やく6割わりは被害ひがい者しゃの保護ほご者しゃからでした。このため協会きょうかいでは、当事者とうじしゃが安心あんしんして窓口まどぐちを活用かつようできるよう、去年きょねん7月つきには子こども向むけの専用せんようサイトも開設かいせつして対応たいおうにあたっています。

スポーツ危機きき管理かんり学がくが専門せんもんで、指導しどう者しゃによる体罰たいばつなどの問題もんだいに詳くわしい日本にっぽん体育たいいく大学だいがくの南部なんぶさおり教授きょうじゅは、次つぎのように話はなしています。

「暴力ぼうりょくや暴言ぼうげんによる被害ひがいを受うけた生徒せいとは自尊心じそんしんを傷きずつけられ、学校がっこうに行いけなくなるケースは少すくなくありません。体罰たいばつなどが発覚はっかくした場合ばあい、学校がっこう側がわはまず被害ひがい者しゃである生徒せいとが話はなしやすい環境かんきょうを作つくり、心こころのケアも含ふくめた支援しえんをするなど“生徒せいとファースト”の対応たいおうが求もとめられると思おもいます」

しかし、子こどもの場合ばあい、暴力ぼうりょくや暴言ぼうげんによる被害ひがいを受うけていても、それが不適切ふてきせつな指導しどうだと気付きづいていなかったり、気付きづくのに時間じかんがかかったりするケースもあります。

また、スポーツの強豪きょうごう校こうなどでは、保護ほご者しゃも指導しどう者しゃに依存いぞんし、子こどものSOSが埋うずもれていないか注意ちゅういが必要ひつようです。

このため南部なんぶ教授きょうじゅは、子こどもや保護ほご者しゃが訴うったえやすい環境かんきょうを整備せいびすることが重要じゅうようだといいます。

（南部なんぶ教授きょうじゅ）

「被害ひがいを受うけても自覚じかくが無ないケースもあるため、何なにが体罰たいばつにあたるかの正ただしい知識ちしきの啓発けいはつを子こどもや保護ほご者しゃにも行おこなうことが必要ひつようです。そのためにも、学校がっこう側がわは内部ないぶだけで対策たいさくを検討けんとうするのではなく、年としに1回かい程度ていど、外部がいぶ講師こうしを招まねいた講習こうしゅう会かいを開ひらくなどして、体罰たいばつを容認ようにんしない体制たいせいを構築こうちくしていくべきだと思おもいます」

日本にっぽんスポーツ協会きょうかいはことし4月つき、スポーツの現場げんばでの暴力ぼうりょくや暴言ぼうげんなど“スポーツハラスメント”にあたる不適切ふてきせつな指導しどうを根絶こんぜつするため「NO！スポハラ（スポーツ・ハラスメント）」をスローガンに活動かつどうを新あらたに始はじめ、保護ほご者しゃを対象たいしょうにした研修けんしゅう会かいの開催かいさいや、SNSを通つうじた啓発けいはつ活動かつどうなどにも力ちからを入いれているということです。

青春せいしゅんをささげてスポーツに取り組とりくむ子こどもたちから、スポーツだけでなく、心こころの尊厳そんげんまでも奪うばう体罰たいばつの現実げんじつ。

そうした現実げんじつを生み出うみださないように、勇気ゆうきを出だして取材しゅざいに応おうじた女子じょし高だか生せいの訴うったえを、重おもく受け止うけとめなければいけないと感かんじます。