冬休ふゆやすみで、家族かぞくそろって公園こうえんに出でかけたときのことでした。

煕ひろし榮さかえくん

「ドッジボールをやってたんやけど、なんか体からだに力ちからが入はいらなくて、ボールも全然ぜんぜん飛とばんかった。家いえ帰かえってから寝ねてたけど、どんどん体からだがしんどくなって、経験けいけんしたことないようなしんどさやった」

症状しょうじょうは帰宅きたく後ご、さらに悪化あっかしました。

高熱こうねつと激はげしい下痢げりで食欲しょくよくはなく、昼食ちゅうしょくもほとんど食たべることができませんでした。

煕ひろし榮さかえくんがコロナに感染かんせんしたのは2か月かげつ前まえで、すでに回復かいふくしていました。

すぐに、自宅じたく近ちかくの総合そうごう病院びょういんを受診じゅしんしてコロナとインフルエンザの検査けんさを受うけましたが、結果けっかはいずれも陰性いんせい。

原因げんいんはわかりませんでした。

体調たいちょうは翌日よくじつになってもよくならず、下痢げりはさらに悪化あっかし、首くびに痛いたみも出で始はじめていました。

同おなじ病院びょういんをもう1度ど受診じゅしんすると、「おたふくかぜではないか」と言いわれたといいます。

処方しょほうされた薬くすりを飲のみ、自宅じたくで療養りょうようを続つづけましたが、症状しょうじょうはひどくなるばかりでした。

本当ほんとうにおたふくかぜなのだろうか。

年としが明あけ、新年しんねんを迎むかえた元日がんじつ。

トイレに行いこうと立ち上たちあがった煕ひろし榮さかえくんは、ふらついて倒たおれてしまいました。

熱ねつは40度どを超こえ、ただの体調たいちょう不良ふりょうではないと感かんじた侑加かさんは、救急きゅうきゅう相談そうだんの電話でんわ窓口まどぐち（＃7119）に連絡れんらく。

救急きゅうきゅう車しゃを呼よんだほうがいいとアドバイスを受うけ、救急きゅうきゅう搬送はんそうを依頼いらいしました。

侑加かさん

「過去かこに病気びょうきをしたこともありましたが、いつも元気げんきでよく食たべる子こなので、明あきらかに様子ようすがおかしい。いつもはすぐに効きく解熱剤げねつざいでも熱ねつは下さがらない。年末ねんまつ年始ねんしでふだんどおり病院びょういんにかかれないことも分わかっていましたし、原因げんいんがわからず、もしものことがあったらと、本当ほんとうに不安ふあんでした」

府内ふないの小児しょうに医療いりょうの拠点きょてんとなっている病院びょういんです。

新型しんがたコロナの感染かんせんが世界せかいで拡大かくだいして以降いこう、子こどもが感染かんせん後ご、川崎かわさき病びょうのような症状しょうじょうを訴うったえる事例じれいが欧米おうべいを中心ちゅうしんに相次あいついで報告ほうこくされ、「MIS－C＝小児しょうに多た系統けいとう炎症えんしょう性せい症候しょうこう群ぐん」と名付なづけられました。

国内こくないでは去年きょねん、自治じち医科いか大学だいがく附属ふぞく病院びょういんの小児しょうに科か医いのグループなどが実態じったい調査ちょうさを行おこない、少すくなくとも64人にんがMIS－Cと診断しんだんされていたことがわかっています。

主おもな症状しょうじょうは、

▽持続じぞくする発熱はつねつ

▽腹痛はらいた・下痢げり・おう吐おうとなどの消化しょうか器き系けいの症状しょうじょう

▽全身ぜんしんの発疹はっしんやリンパ節ぶしの腫はれ

▽目めの充血じゅうけつ（結膜けつまく炎えん）

など。

全身ぜんしんに炎症えんしょうが起おきるため、心臓しんぞうなど臓器ぞうきの働はたらきが悪わるくなることもあります。

症状しょうじょうはほかにも多岐たきにわたり、発症はっしょうの仕組しくみなど詳くわしいことはわかっていません。

患者かんじゃ数すうが少すくないこともあり、はっきりとした診断しんだんの基準きじゅんもまだ確立かくりつされていないのです。

乳幼児にゅうようじがなる「川崎かわさき病びょう」とも似にているため、見分みわけるのは難むずかしく、病院びょういんを受診じゅしんしても煕ひろし榮さかえくんのように診断しんだんまでに時間じかんがかかることも少すくなくないといいます。

「もともと健康けんこうで、搬送はんそうされてきた時点じてんでは発熱はつねつと下痢げりなどの消化しょうか器き系けいの症状しょうじょうが中心ちゅうしんだったので、正直しょうじき、胃腸いちょう炎えんかなという印象いんしょうを持もちました。ただ、お母おかあさんの話はなしをよく聞きいていくと、コロナに感染かんせんしていたこと、ほかの病気びょうきを検討けんとうしたほうがいい症状しょうじょうがあることが分わかり、MIS－Cを疑うたがい始はじめました」

その後そのご、

▽血液けつえき検査けんさで炎症えんしょうが起おきていることを示しめす「CRP」の値ねが高たかかったこと、

▽超ちょう音波おんぱ検査けんさでリンパ節ぶしの腫はれと心臓しんぞうの働はたらきが少すこし弱よわまっているのがわかったこと、

さらに、母親ははおやへの聞き取ききとりで

▽太ふとももに発疹はっしんがあること、

▽朝あさから目めの充血じゅうけつがあったことなどが分わかり、

診断しんだんにつながったということです。

「われわれはさまざまな検査けんさがしやすい環境かんきょうにありますが、すべての病院びょういんで心臓しんぞうのエコー検査けんさなど必要ひつような検査けんさがすぐにできるわけではありません。最初さいしょはかかりつけ医いを受診じゅしんする人ひとが多おおいと思おもうので、詳くわしい検査けんさが必要ひつようとなったら紹介しょうかいしてもらう流ながれができれば、スムーズに診断しんだんにつなげられると思おもいます」

また保護ほご者しゃに向むけては、受診じゅしんの際さいに、▽子こどものコロナの感染かんせん歴れきと、▽子こどもが陽性ようせいでなくても周まわりに感染かんせんした人ひとがいないか、そして、▽子こどもにふだんとは違ちがう様子ようすがないかなど、気きになることを伝つたえてほしいとしています。

ひどかった下痢げりも治なおり、20日間にちかんの入院にゅういんを終おえる頃ころには大好だいすきなごはんが食たべられるまで元気げんきになりました。

「入院にゅういん中ちゅうは本当ほんとうにしんどくて、あんまり覚おぼえてない。薬くすりが効きいてからは楽らくになったけど、もう1回かいコロナになって、またこういう病気びょうきになったらいややから、もうコロナにはなりたくないし気きをつけようと思おもう」

侑加かさん

「コロナ自体じたいは軽症けいしょうでしたし、感染かんせん後ごにこのような症状しょうじょうが出でることは全まったく知しりませんでした。調しらべてみると、まれなケースだとはいうけど、海外かいがいでは亡なくなった子こもいる情報じょうほうもあったし、本当ほんとうに不安ふあんでした。救急きゅうきゅう車しゃで母子ぼしセンターに搬送はんそうされていなければ診断しんだんもされず治療ちりょうも受うけられなかったかもしれないと思おもうと怖こわいです」

心臓しんぞうの機能きのうは問題もんだいがないことも確認かくにんでき、この日ひが最後さいごの受診じゅしんとなりました。

今いまは体育たいいくの授業じゅぎょうにも元気げんきに参加さんかしています。

ただ、母親ははおやの侑加かさんは、なかなか診断しんだんがつかず弱よわっていく煕ひろし榮さかえくんを目の当まのあたりにした不安ふあんが今いまも心こころに残のこっていると話はなします。

日本にっぽん小児しょうに科か学会がっかいや日本にっぽん川崎かわさき病びょう学会がっかいなど4つの学会がっかいは、まずは国内こくないでこれまでMIS－Cと診断しんだんされた症例しょうれいやコロナ感染かんせんを伴ともなう川崎病かわさきびょうなどを詳くわしく調しらべ、ガイドラインの作成さくせいなどを進すすめたいとしています。

新型しんがたコロナはもうすぐ5類るいに移行いこうし、私わたしたちの生活せいかつは感染かんせん拡大かくだい前まえに戻もどりつつありますが、煕ひろし榮さかえくんのように、コロナが治なおっても感染かんせん後ごに心配しんぱいな症状しょうじょうが出でるケースも確認かくにんされています。

まずはMIS-Cについて知しってもらい、もしコロナに感染かんせんしたことがあって原因げんいん不明ふめいの症状しょうじょうがある場合ばあいは、かかりつけ医いなどに相談そうだんしてほしいと思おもいます。