最大野党「タイ貢献党」の首相候補で、タクシン元首相の次女、ペートンタン氏は、家族とともに首都バンコクの投票所を訪れ、1票を投じました。投票後、ペートンタン氏は「100%の自信があり、きょうはいい日になりそうです。人々は変化を求めていると感じていて、タイのため、国民のために投票で権利が行使されることを期待しています」と述べました。
若者を中心に急速に支持を拡大している野党「前進党」のピタ党首は、首都バンコクでみずからが投票する前に記者団の取材に応じ、「有権者はタイをよくしたいと思い、投票するだろう。きょうの選挙は歴史的な投票率になると予想している」と述べました。
また30歳の会社員の男性は「意中の候補の勝利のため投票に来ました。汚職のない政治を望んでいます」と話していました。 36歳の会社員の男性は「クーデター以降の9年は経済が低迷し苦しい期間でした。経済や社会構造の変化を求めていて、政権交代を望みます」と話していました。
続投を目指すプラユット首相は国の安定を図ってきたとしてこれまでの実績を強調し、伝統的な保守層や大企業の経営者などからの支持があるとされています。 プラユット首相に代わり「国民国家の力党」は党首のプラウイット副首相を首相候補にしています。 一方、最大野党「タイ貢献党」はタクシン氏の次女、ペートンタン氏など3人を首相候補に据えて選挙戦を展開してきました。 タイ貢献党は最低賃金の引き上げなど、農村部や低所得層向けの手厚い政策で支持を集めていて、今回の選挙でも主に経済の回復を訴えてきました。 そして、野党勢力で終盤、追い上げを見せているのが野党の「前進党」です。 既存の政治からの脱却を掲げ、若者を中心に急速に支持を拡大してきました。 前回の総選挙で新党ながら第3党に躍進したものの選挙後に解党された「新未来党」の流れをくみ、世論調査では、「タイ貢献党」に次ぐ、支持率を維持しています。 軍の政治関与に反対していてその動向が注目されています。
各党は首相候補を3人まで擁立することができ、総選挙で25議席以上を獲得した政党の候補者から上院・下院の両議員の投票で首相が選ばれます。 総選挙後に行われる首相の指名は今回改選される下院議員500人に加え、軍政下で任命された上院議員250人の投票で決まりますが、多くの上院議員は軍側に有利な投票をするとみられています。 このため、野党が単独で政権をとるには、あわせて750議席の過半数となる376議席を下院で獲得する必要があります。 ただ、今回、単独で政権をとるのは難しいとみられ、選挙後の連立協議の行方が焦点となります。
2014年、陸軍司令官として軍事クーデターを主導し、その後、暫定政権の首相に就任しました。 2019年の前回総選挙では、軍主導の政治体制の継続を目指す「国民国家の力党」の首相候補となり、選挙後の連立政権の首相に就任しました。 ただ「国民国家の力党」内部で求心力が低下し、ことし1月、プラユット氏は、新党の「タイ団結国家建設党」に参加することを表明し、首相候補として続投を目指しています。
タクシン元首相の次女で、家族が所有するホテルなどでの関連事業に携わったあと、おととし(2021年)、党の最高顧問に就任しました。 選挙戦中の5月1日には第2子となる男児を出産。 出産2日後に会見を開き、長男のニックネームは、タクシン元首相にちなんで「ターシン」と名付けたことを発表して、話題を集めました。 次の首相にふさわしい人物を尋ねた世論調査ではたびたびトップに立っています。 タイ貢献党の顔として選挙戦を率いてきた一方で、政治家としての経験が乏しいことから、政治手腕は未知数とされています。
タクシン元首相は経済発展から取り残された農村などからの支持を集め、2001年に首相に就任しましたが、2006年の軍によるクーデターで失脚しました。 その後汚職の罪で実刑判決を受け、収監を免れるため国外で事実上の亡命生活を送っています。 タクシン元首相は国を追われましたが、タクシン派は農村部の住民や低所得者層に浸透してきました。 一方、タクシン氏は5月9日、自身のSNSで「7月の私の誕生日前に家に帰って、孫の世話をすることを決めた。17年家族と離れ、私は年をとった」と投稿し、選挙後に帰国する意向を示しました。 選挙直前のタイミングで帰国の意志を示すことで、タクシン派のタイ貢献党の支持を集め、政権奪還につなげたい思惑があるとみられます。
投票した人たちは
与党側は分裂 野党側は支持拡大
選挙制度と首相指名
プラユット氏とは
ペートンタン氏とは
タクシン派めぐる経緯