北朝鮮は先月、初めての軍事偵察衛星が完成したとして、計画された期間内に打ち上げられるよう最終準備を急ぐ方針を明らかにしていました。
北朝鮮が「人工衛星の打ち上げ」と称して弾道ミサイルを発射すれば、2016年2月以来となります。
落下が予想される海域は、いずれも日本の排他的経済水域=EEZの外側にある北朝鮮の南西側の黄海上の2か所と、フィリピンの東側の太平洋上の1か所の合わせて3つの海域で、海上保安庁は、航行警報を出して船舶に注意を呼びかけています。
これまでに集まった情報を共有し、分析にあたるとともに、今後の対応を協議しているものと見られます。
人工衛星を打ち上げるためのロケットと、弾道ミサイルは、構造が基本的に同じで、先端に衛星を積んでいるか、兵器を積んでいるかで目的が異なります。 防衛省幹部の1人は「これまで北朝鮮は衛星の打ち上げを隠れみのにして、ミサイル技術の向上を追求してきたと思うが、ここ最近は衛星の打ち上げに関係なくミサイルを撃ってきている。ミサイルの技術が十分になっているのだとしたら本当に軍事偵察衛星を地球周回軌道に乗せようとしている可能性がある」と話しています。 また別の防衛省幹部は「北朝鮮がおととし発表した国防に関する計画の中では、軍事偵察衛星の保有が目標に掲げられている。それを踏まえると、ミサイル技術の向上というよりは、衛星の運用に向けた動きに近いと考えられる」と話しています。 人工衛星を打ち上げたかどうかを見分けるには、飛行コースや飛行速度を詳しく分析する必要があるほか、人工衛星であれば、地上との交信で通常は何らかの電波や信号を発信するため、防衛省は、自衛隊のレーダーなどでこれらの情報を収集して分析するものとみられます。
このうち日本の近海では、弾道ミサイルなどを追尾することができる高性能レーダーと、迎撃ミサイルを搭載したイージス艦が展開していて、24時間態勢で備えています。 また、北朝鮮が2012年と2016年に「人工衛星」と称して事実上の弾道ミサイルを発射した際には、沖縄県の先島諸島付近の上空を通過していることから、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」を陸上自衛隊の与那国駐屯地や石垣駐屯地、航空自衛隊の宮古島分屯基地などに展開しています。
自衛隊は、北朝鮮が2012年と2016年に「人工衛星」の打ち上げと称して事実上の弾道ミサイルを発射した際にも、「PAC3」を沖縄本島と宮古島や石垣島、それに首都圏に展開させていますが、いずれも迎撃ミサイルは発射していません。
1998年8月、北東部のムスダンリ(舞水端里)から長距離弾道ミサイル「テポドン1号」が、事前の予告なしに日本の上空を初めて越える形で発射され、北朝鮮は「人工衛星『クァンミョンソン(光明星)1号』を打ち上げた」と発表しました。 2009年4月、北朝鮮は国際機関に事前に通告した上で「人工衛星『クァンミョンソン2号』の打ち上げ」と称して、再びムスダンリから事実上の長距離弾道ミサイルを発射しました。 2012年4月には、キム・イルソン(金日成)主席の生誕100年を前に、北西部トンチャンリ(東倉里)から「地球観測衛星『クァンミョンソン3号』の打ち上げ」と称して、事実上の長距離弾道ミサイルを発射しました。 その際、NHKをはじめ外国メディアに発射施設を初めて公開し、国際社会に向けて透明性をアピールしましたが、発射は失敗しました。この年の12月、キム・ジョンイル(金正日)総書記の死去から1年となるのに合わせて「地球観測衛星『クァンミョンソン3号』2号機の打ち上げ」と称して再びトンチャンリから事実上の長距離弾道ミサイルが発射され、アメリカ軍は、何らかの物体が地球を周回する軌道に乗ったと分析しました。 さらに前回、2016年2月には、キム・ジョンイル総書記の生誕74年を前に「地球観測衛星『クァンミョンソン4号』の打ち上げ」と称して、トンチャンリから事実上の長距離弾道ミサイルが発射され、北朝鮮は、国営テレビで「特別重大報道」として「打ち上げ成功」を大々的にアピールしました。これについて韓国国防省は、何らかの物体が地球を周回する軌道に乗ったものの、信号は確認されていないとしていました。
2012年4月は、発射の28日前に「地球観測衛星として『クァンミョンソン(光明星)3号』を北西部のソヘ(西海)発射場から南に向けて打ち上げる」と発表し、5日間の予定期間を設定しました。 また、この年の12月は、発射の11日前に「地球観測衛星『クァンミョンソン3号』の2号機を打ち上げる」と明らかにし、13日間の予定期間を設けました。 さらに、前回・2016年2月は、発射の5日前に「地球観測衛星『クァンミョンソン4号』を打ち上げる」として、18日間の予定期間を国際機関に通告していました。 一方で北朝鮮は、関係国が警戒を強める中で陽動作戦とも受け取れる動きも見せてきました。 2012年12月は、予定期間に入る前日になって「打ち上げの時期の調整を慎重に検討している」として先延ばしを示唆し、翌日には「運搬ロケットの1段目のエンジンに技術的な欠陥が見つかった」として、予定期間を1週間延長。 「運搬ロケット」を発射台から取り外す動きも捉えられましたが、結局、予定期間の3日目に発射されました。 また、2016年2月は、予定期間に入る2日前になって一日前倒ししたうえで、初日に発射していました。
このうち、2009年4月と2012年4月は予告期間の2日目に、2012年12月は3日目、2016年2月は初日にそれぞれ発射しています。 一般的なロケットの場合、強風や強い雨、雷などの悪天候が予想されると、打ち上げに悪影響を及ぼすおそれがあるため、北朝鮮は天候条件などを考慮しながら発射する日を決めるものとみられます。
一方で、防衛省関係者によりますと、軌道に投入された物体と地上との定期的な通信などは確認されていないということです。 防衛省は、いずれの物体も人工衛星としての機能を果たしているとは考えられないとして、長距離弾道ミサイルの技術を高めるための発射だったとしています。 その後、北朝鮮は2017年7月に初めて射程が5500キロ以上のICBM=大陸間弾道ミサイル級のミサイルを発射しました。それ以降、ICBM級の弾道ミサイルの発射を繰り返し行っていて、その数は可能性のあるものも含めると合わせて13回となっています。
敷地内には、大型の固定式発射台や、エンジンの実験などを行う「連動試験場」、それに管制センターにあたる「総合指揮所」などが点在しています。 「ソヘ衛星発射場」をめぐっては、2018年6月に行われた史上初の米朝首脳会談のあと、当時のアメリカのトランプ大統領が、北朝鮮が取り壊すことを約束したと述べたほか、同じ年の9月に行われた南北首脳会談の共同宣言では「関係国の専門家の立ち会いのもと、永久に廃棄する」という項目が盛り込まれました。 しかし、米朝関係がこう着する中で廃棄は実現せず、去年3月に「ソヘ衛星発射場」を視察したキム・ジョンウン(金正恩)総書記は、軍事偵察衛星などを「大型運搬ロケット」で打ち上げられるよう、施設の改修や拡張を指示しました。その後、具体的な動きは伝えられていませんでしたが、アメリカの研究グループは、今月12日に「ソヘ衛星発射場」を撮影した衛星写真の分析から、固定式発射台の近くにクレーンが設置され、改修工事が進められていると指摘していました。 一方「ソヘ衛星発射場」では去年12月、キム総書記の立ち会いのもと、ICBM=大陸間弾道ミサイル用とみられる大出力の固体燃料式エンジンの燃焼実験が初めて行われたのに続いて、準中距離弾道ミサイル2発が発射され「偵察衛星開発のための最終段階の重要実験を行った」と発表していました。
海上保安庁 航行警報を出して船舶に注意呼びかけ
関係省庁の局長級メンバーによる会議開かれる
複数の防衛省関係者 人工衛星打ち上げの見方示す
自衛隊 4月に迎撃ミサイルなどの部隊展開のため準備命令
「人工衛星」称する事実上のミサイルの発射繰り返す
過去にも国際機関に対し事前通告
過去には予告期間の初日から3日目までに発射
地球を周回の軌道に物体投入は過去2回と分析
「ソヘ衛星発射場」とは