また、運転開始から30年以降は10年を超えない期間ごとに機器や設備の劣化状況を確認して管理計画を策定し、原子力規制委員会の認可を受ける必要があるとしています。
原発の運転期間の実質的な延長をめぐっては、ことし2月、原子力規制委員会が老朽化に対応するための新しい制度の採決を行った際、委員の1人が反対し異例の多数決で決定されました。
このため政府は、国民の不安払拭(ふっしょく)に努める必要があるなどとして、法案の閣議決定を当初の予定より遅らせ、2月末に行いました。
さらに、この法律については、衆議院で与党側が日本維新の会や国民民主党との修正協議に応じ、原発の活用に当たって国の責務として、電力を多く消費する都市部の住民の協力を得るなどとする文言が追加されました。
31日の参議院本会議で行われた採決では、自民・公明両党と、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決・成立しました。
この中で、抗議活動を呼びかけた脱原発などを訴える環境NGOのメンバーは「今回の法案は『国の責務』として原子力産業を支援し、原子力回帰に大きくかじを切った法案だ。それにもかかわらず、衆議院でも参議院でも1か月ほどの議論で審議は尽くされていない」と述べました。 集まった人たちは「福島の原発事故を忘れるな」とか「原発回帰反対」などとシュプレヒコールをあげて、国会議事堂に向かって反対を訴えていました。
原子炉等規制法は、原子力規制委員会が所管していますが、今回の改正で、運転期間に関する規定は、経済産業省が所管する電気事業法へ移管されます。 この中では、原則40年、最長60年という制限は維持しつつ、経済産業大臣が認可すれば原子力規制委員会の審査などで停止していた期間を運転期間から除外することで実質的に60年を超えて運転することが可能となります。 ただ、除外できる期間について経済産業省は現時点では具体的な基準を示しておらず、電力会社側のミスや不手際で審査が長期化した場合にも、その分の延長を認めるのかは明らかにされていません。
具体的には、運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに原発の機器や設備の劣化状況を確認して管理計画を策定し、規制委員会の認可を受けることを事業者に義務づけます。 原子力規制委員会は、60年を超えて運転する原発が出てくることを念頭に、建設から時間がたって設計が時代遅れになってしまう事態に対応するため、最新の原発と比較して不十分な対策があれば追加で対策を求めるとしていますが、その具体的な方法などは今後、検討するとしています。 さらに、今回の法改正では、原子力利用の基本方針を定め「原子力の憲法」とも呼ばれる原子力基本法も大幅に改正されました。 原子力基本法は、1955年に、日本が原子力の利用を始めるに当たって目的を平和利用に限定し、安全確保や情報公開の重要性を明記した法律ですが、今回の改正で、原発を活用して電力の安定供給や脱炭素社会の実現に貢献することを初めて「国の責務」と位置づけました。
これを受けて、原子力規制委員会は去年10月、安全性を確認する制度の検討を事務局の原子力規制庁に指示しました。 しかし実際には、その前の去年7月から、経済産業省の担当者が原子力規制庁の担当者と非公式に面談し、法改正のイメージを伝えたうえで、原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法を改正する条文案を示すなどしていたことが明らかになっています。 その中では、経済産業省の担当者が「安全規制が緩んだように見えないことが大事」などと、高い独立性が求められる規制のあり方に踏み込んだともとれる意見も伝えていました。 面談は7回に及んでいて、原子力規制委員会はこの問題を受けて、今後は原子力を推進する行政機関との面談でのやりとりを記録に残して公開することを決めました。 さらに、ことし2月、原子力規制委員会が原発の運転期間の規定を削除し、老朽化に対応するための新しい制度を盛り込んだ原子炉等規制法の改正案を採決した際には、地震や津波などの審査を担当する石渡明委員が「科学的・技術的な新しい知見に基づくものではなく、安全側への改変とも言えない」などとして反対し、多数決での決定となりました。 規制委員会が重要な案件の内容について賛否が分かれたまま多数決で決定するのは、異例の事態でした。
ウクライナ侵攻のあと、ロシアがG7などの経済制裁に対し、原油や天然ガスの供給を絞り込んだことなどから、エネルギー価格は上昇しました。 火力発電に依存する日本では、大手電力10社のうち7社の電気料金が6月1日の使用分から、各社の平均で15%余りから39%余り値上げされるなど、国民生活にも影響が出ています。
こうした中、今回の法改正は、安全を最優先に原子力を最大限活用する方針を明確にする一方、老朽化した原子炉に対する規制を厳しくすること、さらに原子力規制委員会による厳格な審査を大前提に運転期間の延長に関するルールを整備することなどを柱としています。 政府は、福島第一原子力発電所の事故のあと、原子力関連の技術者や学生が減少し、人材の確保や技術の継承が課題となっていることから、企業や大学などに対する支援を強化する方針です。 そのうえで、今後、廃炉となる原発の建て替えを念頭に、次世代型の原子炉の開発や建設を進める方針で、アメリカやイギリスなどとともに研究開発やサプライチェーンの構築に取り組むことにしています。
柏崎刈羽原発は、テロ対策の不備により原子力規制委員会から事実上運転を禁止する行政処分が出されていますが、今回の法律の成立が、再稼働をめぐる議論に影響を与えるかどうか質問されたのに対し、花角知事は「議論の背景としてエネルギー情勢は関わっていく」と述べ、政府のエネルギー政策を踏まえた議論が行われるという認識を示しました。
また、大井川知事は、東海第二原発の再稼働に関する県の判断への影響について「若干影響してくると思う。運転期間が60年だということを前提に安全性の検討を行ってきているため、事業者から話を聞いたうえで追加の検討が必要になる可能性がある」と述べました。 茨城県東海村にある首都圏唯一の原発、日本原子力発電の東海第二原発は、1978年11月に運転を開始し、2018年に延長が認められたため、最長で運転の開始から60年に当たる2038年11月まで運転が可能とされています。 東日本大震災以降、運転が停止していましたが、再稼働の前提となる新しい規制基準の審査に合格し、現在は安全対策工事が行われています。
そのうえで「原発がいつまでも安全であるということは絶対ありえないわけです。使用済み核燃料もたまっていくし、それを未来の人たちに押しつけるつけることはあってはならないと思います。エネルギーは再生可能エネルギーに変えていくことを提案していきたいと思っています」と話しました。
二本松市に住む20代の男性は「原発事故のあとの風評被害でいろいろ苦しんだことを考えると、今回の法律の改正には大きく賛成できないが、電気代の高騰などの問題を考えると、ある意味致し方ないのかなとも思う」と話していました。 福島市に住む70代の女性は「原発は全部廃止してもらいたいと思っています。福島の原発がああいう状態で廃炉も数十年かかると言われているのになぜこのような法律が決まるのか不思議でしかたがない」と話していました。 一方、郡山市に住む20代の大学生は「最近は電気料金が高くなっているということもあるので、運転期間の延長には納得できる部分もある。災害があった時に再び事故が起こらないよう安全点検をしっかりし、上限を超えて運転するなら、地元の人への理解を得たうえで実施してほしい」と話していました。 福島第一原発が立地する大熊町に住む松永秀篤さん(71)は、町の一部で、はじめて避難指示が解除された4年前にいち早くふるさとに戻りました。 しかし、もとの自宅は、除染で出た土などを保管する中間貯蔵施設の用地となり、今は町内の別の場所で暮らしていますが、以前の生活は完全に失われました。 松永さんは「事故から12年がたって私たち住民が避難したことを忘れてしまったのかと腹立たしく思う。何事もなかったかのように国が原発の最大限の活用を決めてしまうのは、がっかりを通り越してことばにならない」と思いを語りました。 そのうえで「事故前は原発の安全神話を信じていたが、それが事故を起こした。原発を60年以上稼働させて絶対に安全であることはありえない。原発の安全性を追及するくらいなら、もっと別な発電の方法に力を入れてほしい」と訴えていました。
福井県内では、廃炉が決まったものを除いて、運転開始から40年を超えた原発が3基、30年を超えた原発が5基あります。 このうち、すでに稼働している美浜原発3号機に加え高浜原発1号機と2号機は60年までの運転が認可されているほか、高浜原発3号機と4号機も同じように運転期間の延長を申請しています。 原発のメンテナンスなどに使う工具を販売している敦賀市の会社の小森英宗会長は「原発の部品はどんどん新しいものに取り替えられているので、60年を超える運転が認められたのは大歓迎です」と話していました。 そのうえで「地元の経済のためにはこれにとどまらず、新しい原子炉の開発にも力を入れてほしい」と述べ、原発の新設や増設にも期待を示しました。 一方、原発に反対する市民グループの石地優さんは「福島の事故後に定められた運転期間を延長するのは事故の教訓をないがしろにする行為だ」と述べました。 そのうえで「福井県内の原発ではトラブルが相次いでいる。60年を超えて運転することで予期せぬトラブルが起きるのではないか」と不安をにじませていました。
福島第一原子力発電所の事故が起きる前、2010年度の原子力発電の割合は25.1%でしたが、事故のあと全国で原発が相次いで停止し、2014年度にはゼロになりました。
その結果、電源構成全体に占める原子力発電の割合は2021年度で6.9%となっています。 ただエネルギー基本計画で定めた「20%から22%」の目標には達していないことから、政府はことしの夏以降、関西電力の高浜原発1号機と2号機、東北電力の女川原発2号機、中国電力の島根原発2号機、東京電力の柏崎刈羽原発6号機と7号機、日本原子力発電の東海第二原発の合わせて7基の再稼働を目指す方針です。 ただ、再稼働に当たって立地する自治体の不安は根強く、テロ対策上の重大な不備が相次いで明らかになった東京電力の柏崎刈羽原発など地元の理解が十分に得られていないところもあります。 政府は、再稼働に向けて国が前面に立って対応するとしていますが、国民の理解をどのように得ていくかが大きな課題となっています。
そのうえで「今後、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラル実現の両立に向け、法律の着実な施行に努め、さまざまな場を通じて政府の考えを説明し、国民の不信や不安な思いに応え、理解が得られるよう取り組む」と述べました。
また、今回の法改正に当たって、国民に丁寧に説明できたかと問われたのに対し、西村大臣は「資源エネルギー庁の審議会で100回を超える議論を重ね、国会でも一定の審議時間を取った。私自身としてはできるだけ分かりやすく、丁寧に説明したつもりだ」などと述べました。
また、運転開始から30年以降10年を超えない期間ごとに機器や設備の管理計画を策定し、規制委員会の認可を受けることを義務づける新しい制度への移行によって、法律が施行される2年後までに30年や40年を迎える原発の認可申請が相次ぐことが想定されていて、山中委員長は「この2年間は、すでに申請されている古い制度での審査と、新たに申請される新しい制度での審査を並行して行う必要があり、ハードルが高くなるかもしれないが、できるだけ早く態勢を構築し、効率よく、ミスが起こらないよう進めていきたい」と述べました。
法律に反対の市民団体など 国会前で抗議
改正された法律の中身は
法律の改正に至るまで
法律が改正された背景は
電気事業連合会 池辺和弘会長「大変意義あるもの」
新潟県 花角知事「原子力の位置づけ 国が十分議論を」
茨城県 大井川知事「納得できる形での説明が大事」
鹿児島県 塩田知事「国は方針変更の科学的根拠 しっかり説明を」
原発反対の市民団体「すごく残念」
原発事故を経験 福島県の住民は
全国最多の原発が立地 福井県の住民は
原発めぐる現状と課題
松野官房長官「国民の理解得られるよう取り組む」
西村経済産業大臣「安全確保を大前提で原発再稼働を進めていく」
原子力規制委 山中伸介委員長「これから規制委の真価 問われる」