JAXAによりますと、打ち上げからおよそ8分後「ロケットの2段目のエンジンの点火が確認されていない」というアナウンスが流れました。さらに、およそ15分後の午前10時52分ごろ、ミッションを達成する見込みがないとして地上からの指令でロケットを爆破する「指令破壊」の信号を送ったというアナウンスが流れ、打ち上げは失敗しました。JAXAなどが現在、詳しい状況を調べています。
国内のロケット打ち上げ失敗は、去年10月の「イプシロン」6号機以来で「H2A」では2003年に6号機で失敗しています。打ち上げは当初、2020年度の予定でしたが、新型のメインエンジンの開発が難航するなど、延期が続いていました。先月17日には、発射直前にロケットの1段目にある装置が異常を検知したため打ち上げが中止され、その後、JAXAなどが原因の究明を進め対策を講じてきました。「H3」は、国産の主力ロケットとして日本の今後の宇宙開発の“切り札”と位置づけられていただけに、初号機の打ち上げ失敗による影響は避けられない見通しです。
また永岡大臣は、参議院文教科学委員会で「宇宙分野はフロンティアとしてのみならず、新たな産業創出や安全保障の観点からも重要だ。『イプシロン』ロケット6号機に続いて『H3』ロケット初号機の打ち上げが失敗となったことは大変遺憾だ。宇宙開発、利用の進展を止めないよう、速やかな原因究明に全力で取り組む」と述べました。
東京都から家族で訪れた30代の男性は「改めてロケットの打ち上げは厳しいものなのだと思いました。失敗と言われてしまうかもしれませんがいい経験値になると思うので、これからも応援しています」と話していました。
機体の組み立て棟にあるロケットは、6日午後4時から発射地点に移動します。 【6日午後6時半ごろ】 発射地点に移動した機体と地上設備を連結させ、先月の打ち上げ中止の原因となった電気と通信の切り離しに問題がないか確認します。 【6日午後10時すぎから】 燃料の「液体水素」と燃焼に必要な「液体酸素」の注入が始まります。 【7日午前9時40分ごろと午前10時半ごろ】 それぞれ機体の状況や天候などを踏まえ、打ち上げを行うかどうかを判断します。打ち上げ実施が決まると、発射の4分前からの作業は自動に切り替わり、発射の2分50秒前に電源を地上設備からロケット内部に切り替えます。発射の6秒ほど前からメインエンジンが燃焼し始め、午前10時37分ごろ、補助ロケットが燃焼すると同時に「H3」は発射台を離れます。 【発射後】 ロケットは、メインエンジンと補助ロケットで上昇。 【発射1分56秒後】 高度43キロで補助ロケットが分離。 【発射3分31秒後】 メインエンジンが燃焼を続け、ロケットの最上部にある「フェアリング」と呼ばれる人工衛星の覆うカバーを外します。 【発射4分56秒後】 高度258キロでメインエンジンが燃焼停止。ロケットの1段目が切り離されます。 その後も上昇を続けます。 【発射5分15秒後】 ここで2段目のエンジンが発射の燃焼がスタートする予定でした。 【発射16分42秒後】 高度675キロで搭載した「だいち3号」を分離する計画でした。
新型ロケット「H3」はJAXA=宇宙航空研究開発機構と三菱重工業が9年前から開発しています。日本の大型ロケットとしては「H2」以来となるおよそ30年ぶりの新規開発で、現在の日本の主力ロケット「H2A」の後継機として総開発費2000億円余りの国家プロジェクトとして進められています。「H3」の全長は最長で63メートル、直径は5.2メートルあり、燃焼を終えると順次切り離す2段式ロケットで、第1段と第2段には、ロケットを飛ばすための推進剤に「液体水素」と「液体酸素」を使っています。 エンジンはいずれも新型で、 ▽第1段のメインエンジンが「LE-9」 ▽第2段のエンジンが「LE-5B-3」 さらに、 ▽「SRB-3」という固体燃料を使う補助ロケットを搭載することができます。 「H3」は、「H2A」に比べて、エンジンの第1段では部品の数を、補助ロケットでは本体との結合点を減らすなど、独自の技術を採用して設計をシンプルにしています。 【発射台】 発射場は、鹿児島県の種子島宇宙センターですが、発射台も新たに開発していて、上部の配管を無くすなど、打ち上げ作業の効率化を図る工夫を施しています。 【搭載重量に応じて変更可能】 「H3」は、メインエンジンを2基から3基に増やせるほか、補助ロケットの本数も最大4本まで搭載可能です。 人工衛星を覆うカバー「フェアリング」の大きさも長短2種類あり、搭載する人工衛星に応じて仕様を変えられるのも特徴です。 【初号機は】 今回打ち上げる初号機は、メインエンジンが2基、補助ロケットが2本、フェアリングは短いタイプを使用するため、全長は57メートルで、人工衛星を含めない重量はおよそ422トンです。地球観測衛星「だいち3号」を搭載します。
災害の監視や状況把握、地図の作成などに活用され、2011年、東日本大震災の被害状況の観測後に運用を終えた「だいち」の後継機にあたり、2014年に打ち上げられた「だいち2号」と併用して運用される計画です。大きさは、高さ5メートル、重さおよそ3トンで、地球を一日当たりおよそ15周し、上部に取り付けられたセンサーを使って観測します。 初代「だいち」に比べると、画像の解像度は3倍以上に向上。高度670キロの宇宙から地上にある80センチの物体を識別できるということです。さらに、通信速度は従来の2倍以上となり、災害時の緊急観測や地図情報に役立てられるほか、森林の生育状況や魚などの生息場所となる「藻場」の状態の把握などにも活用が期待されます。 このほか「だいち3号」には、防衛省が開発した「2波長赤外線センサー」が搭載され宇宙空間で実証が行われます。このセンサーは、異なる2つの赤外線の波長を同時に検出し、より高い識別能力を発揮することが可能とされ、将来的には弾道ミサイルの発射の探知など、安全保障に関わる情報収集や警戒監視への活用が期待されるということです。
現在の主力ロケット「H2A」は打ち上げ能力を強化した「H2B」も含め、これまで55回打ち上げられ、失敗は2003年、「H2A」6号機の1回だけで成功率は98%を誇ります。一方で、「H2A」は、打ち上げ1回当たり、およそ100億円かかります。商業衛星の打ち上げ需要が高まり、世界中で新型ロケットの開発が進む中で、H2Aでは将来、価格競争の面で不利になると指摘されています。 【「H3」が掲げる目標】 「H3」は「H2A」より10メートル長い全長63メートル。直径も1.2メートル大きい5.2メートルで、国内のロケット史上最大。打ち上げられる重量は「H2A」のおよそ1.3倍に増強されました。そしてコスト面では、打ち上げにかかる費用をおよそ50億円と、「H2A」の半分程度に抑えることを目指して開発。独自の技術を採用してエンジン部品の数をこれまでの3分の1程度に減らしたほか、ロケットの発射台も新たに開発していて、上部の配管を無くすなど、打ち上げ作業の効率化を図る工夫を施しています。さらに、受注から打ち上げまでの期間を2年から1年に短縮するとともに年間6機の打ち上げを目標に掲げています。 「H3」は、これまで築いてきた日本のロケットへの高い信頼性を維持しながら、新しい宇宙開発時代に必要なパワー増強と、コストダウンを両立させ、各国がしのぎを削る国際的な打ち上げビジネスに対抗するのがねらいです。
「H3」の初号機の打ち上げは当初、2020年度の計画でしたが、開発が難航し、年度をまたぐ延期を2度、余儀なくされました。延期の原因は、ロケット開発の最大の難所で、「魔物が潜む」とも言われるメインエンジンの開発でした。 【「LE-9」とは】 「H3」は、パワー増強とコストダウンの目標とともにこれまで築いてきた打ち上げへの高い信頼性の維持が掲げられました。その重要な鍵となるのが、新型のメインエンジン「LE-9」です。従来のメインエンジンと大きく異なるのが、燃料を送り込む装置「ターボポンプ」の駆動方法。これまでは、「ターボポンプ」を動かすための強力なガスを生み出す「副燃焼室」がありましたが、「LE-9」では構造をシンプルにするため、「副燃焼室」をなくしました。これによって部品の数を3分の1程度に減らすことで「コストダウン」につなげるのがねらいでした。 【壁となった「振動問題」】 しかし、「ターボポンプ」を強力に動かすために内部を大きくしたことなどから装置の一部に負荷がかかり、2020年5月に実施したエンジン燃焼試験で、特殊な振動が生じた影響で部品にヒビが入る問題が浮上。JAXA=宇宙航空研究開発機構は2020年9月、初号機の打ち上げを翌年度に延期すると発表しました。その後、ターボポンプを改良するなどして特殊な振動による影響は改善されましたが、おととし10月のエンジンの燃焼試験で、またしても装置の一部で特殊な振動が確認されます。このため去年1月、JAXAは2度目となる打ち上げ延期を発表しました。 【「日々是燃焼」の精神で】 開発チームは、「ターボポンプ」の製造に数か月かかることなどを考慮し、異なる対策を施した「ターボポンプ」を5種類製造し去年3月以降、燃焼実験を次々に実施して検証。去年11月に実施した最終段階の試験をクリアし、打ち上げにこぎ着けました。
商業衛星の打ち上げ需要が高まっていることを背景に、近年、世界中で新たな大型ロケットの開発が進められています。 日本の新型ロケット「H3」は全長63メートルありますが、同程度の大きさのロケットが各国で開発、運用されています。 運用がすでに始まっているのは、 ▽アメリカでは全長70メートルの「ファルコン・ヘビー」 ▽ロシアでは全長69.5メートルの「アンガラA5」 ▽中国では全長およそ54メートルの「長征5号B」などです。 また、 ▽ヨーロッパでは全長63メートルの「アリアン6」が開発中。 ▽アメリカのロケット全長69.5メートルの「バルカン」なども開発が進められています。
「H3」の初号機は先月17日に、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられる予定でした。しかし、打ち上げの6.3秒前にメインエンジンの燃焼が正常に始まったあとロケットの1段目にある装置が異常を検知し、補助ロケットの着火信号を送らず打ち上げは直前で中止となりました。JAXAと三菱重工業は翌日の先月18日に初号機の機体を組み立て棟に戻したうえで、ロケットと地上設備とを組み合わせながら原因の究明を進めてきました。 【原因】 その結果、異常が起きたのは「V-CON1」と呼ばれるロケットの1段目にある装置だと発表。地上設備から送られる電気信号の乱れが原因で装置が誤作動し、電流と電圧の値がゼロになったということです。ロケットは、発射地点に据え付けられたあと発射台のケーブルを通して電力が供給されていますが、これまでの打ち上げでは発射直前に管制室のスイッチを切る際、電気と通信を同時に切り離していました。この電気と通信のラインを同時に切り離した際に電気信号の乱れが生じ、ロケットの1段目の装置で誤作動が起きたとしています。
そこで、電気と通信の切り離しを段階的に行うよう変更するなど対策を講じ、電気信号の乱れが抑えられたことを確認したとしています。JAXAと三菱重工業は、打ち上げ前日にロケット本体を組み立て棟から発射地点に移し、装置や電気と通信の切り離しの動作に問題が無いか改めて確認したうえで、打ち上げに臨んでいました。
永岡文科相 “イプシロンに続きH3打ち上げ失敗は大変遺憾”
JAXA広報担当者 “ミッション達成の見込みなく失敗という形に”
種子島の公園で発射を見守った人たちは
本来の打ち上げの手順
新型ロケット「H3」とは
搭載されていた「だいち3号」
「H3」の最大の特徴はパワー増強とコストダウン
難航極めたエンジン開発
海外のロケット開発は
先月17日の「中止」の経緯と対策