これから旬を迎える柿!?
寺や大仏?
それとも鹿の数!?
魅力がたくさんある奈良県ですが、実は喫煙率の“低さ”が全国1位なんです。
2019年の国の調査で15.3%。
しかし、なぜ奈良の喫煙率が低いのでしょうか。
その理由を探ってきました。
(なんでなん取材班 奈良放送局 山田雄大記者/大阪放送局 吉田菜穂ディレクター)
地元民の「仮説」は
喫煙率が低い理由について地元の人はどう考えているのでしょうか?
駅前で聞いてみると…。
「なんでなんやろ、人に迷惑かけたくない人が多いんとちがう?」
「奈良の人はけっこう真面目なんです。あかんと言われたものはやめる傾向があるんじゃないか」
「文化財とか多いからじゃないですかね」
奈良県民の人柄から文化財への意識まで、いろいろな説が飛び出しましたが、共通して「これだ」というものはないようです。
“学歴説?”を検証
記者が取材を進めていくと、たばこに関する、ある研究結果を見つけました。
『最終学歴が高くなるほど喫煙率が低くなる』というもので、特に若い世代でその傾向が強いということです。
そこで、奈良県民であるかどうかはひとまず置いて、学歴と喫煙の関係について調べるため、関西有数の難関校、京都大学に向かいました。
学生や大学院生50人にたばこを吸っているか、聞いてみると…。
「吸っても体によいとかメリットないし、吸わなくても困らない」
50人中、50人が「たばこを吸わない」と回答。
若者のたばこ離れが進んでいることも影響したのか、少し極端な結果になりました。
さらに「学歴説」をもとに、都道府県別に大学や短大などへの進学率を調べてみると、奈良県は全国7位でした。
ただ、大学進学率が高い県でも喫煙率は比較的高い、というケースもありました。
奈良県の喫煙率の低さについて、少なくとも、これだけで説明することは難しそうです。
奈良県 躍進のキーパーソンは
実は奈良県、もともと喫煙率が低かったわけではありません。
2001年の喫煙率は29%で全国でも28位。
しかし、2004年の調査では24.2%まで低下し、順位も3位と大きく改善しています。
なぜ急激に改善したのか。
ここにも謎が…。
そこで、奈良県の疾病対策課に問い合わせてみると、新たなヒントが出てきました。
(疾病対策課 課長補佐)
「奈良県では、『たばこ対策推進委員会』を設置していて、委員長もつとめていただいている 高橋裕子先生が詳しいと思う」
キーパーソンとして紹介された高橋さん。
1994年、勤務先の奈良県の病院で全国初の禁煙外来を開設。
7年間でおよそ5000人の診察を手がけたといいます。さらに、メールでアドバイスを受けながら禁煙に取り組む「禁煙マラソン」も展開。
禁煙を促す取り組みをリードしてきた存在です。
その高橋さんが次に力を入れたのが児童への対策でした。
2003年、奈良県内の小学1年生全員に、たばこのリスクを盛り込んだ絵本を配布。
保護者にも禁煙の実践的な方法を記した副読本を作成し、禁煙を促しました。
子どもにたばこを吸い始める前にリスクを直接、伝えるとともに、子どもが家庭でたばこに触れる機会を減らせば、喫煙率を抑えられるという考えがあったといいます。
京都大学大学院 高橋裕子 特任教授
「奈良県の喫煙率の低さについて、一つだけの理由をあげるのは難しいと思うんですけれど、ほかの県でなされていなくて、奈良県でなされたことの一つは、小学校1年生の喫煙防止教育と、それに伴う保護者の教育があったということです。やはりたばこを吸う習慣をつける前に対策することが一番効果があります」
こうした取り組みが功を奏したのか、2013年には全国で最も喫煙率が低い県となったのです。
続く“草の根”の活動
それ以降、3回連続で喫煙率が全国一低くなった奈良県。
高橋さんの思いを受け継ぐ形で、県内各地で禁煙を呼びかける取り組みが続けられています。
その1つが町独自の調査で県よりも喫煙率が低いというデータがある平群町。
町の健康部局が入る建物では、敷地内には喫煙所すらなく、全面禁煙の徹底ぶりです。
さらに、役場の封筒には「禁煙ソング」。
禁煙が体や心の健康につながることをつづった歌。
この「禁煙ソング」を町で流している車があるとの情報が。
町内を巡っていたところ、スピーカーから「禁煙ソング」を流す車を見つけました。
活動を担っているボランティアの方に伺うと、第1金曜日を「禁煙デー」として町内を巡回しているということでした。
また、小学校で行われたボランティアによる紙芝居教室では、たばこのリスクを分かりやすく解説していました。
もともとたばこを吸っていた私は、少々、肩身が狭い思いもしましたが、その徹底ぶりに感心し、喫煙率の低さを維持できている理由は、こうした地道な活動の成果だと感じました。
関西は全体的に喫煙率が低いが 大阪は…
ちなみに、関西のほかの府県を見ると、京都府や滋賀県など多くの府県で喫煙率はかなり低い傾向がありました。
滋賀県は2001年から「喫煙率半減」という目標を打ち出したほか、京都府や和歌山県も早くから禁煙や防煙教育に力を入れていたのです。
関西で唯一、全国平均よりも喫煙率が高い大阪府でも、徐々に取り組みが始まっています。
例えば、大阪市は、再来年の大阪・関西万博に向けて、市内全域での路上喫煙を禁止する条例案を議会に提出する予定です。
東京がオリンピック・パラリンピックを契機に禁煙化や分煙化が進んだように、大阪も国際的なイベントをきっかけに変わるかも知れません。
各自治体が健康施策に力を入れる中、今後も奈良県は1位を維持するためには、奈良に根付いた草の根の運動をいかに長く続けられるかがカギになりそうです。