首都しゅとバグダッドに住すむフセイン・アリさん（25）は15年ねん前まえ、10歳さいの時ときに自転車じてんしゃに乗のって遊あそんでいたところ、アメリカ軍ぐんに後うしろから銃じゅうで撃うたれ、大だいけがを負おったといいます。

当時とうじ、フセインさんの住すんでいた地域ちいきは駐留ちゅうりゅうするアメリカ軍ぐんに抵抗ていこうする民兵みんぺい組織そしきの拠点きょてんとなっていたため、アメリカ軍ぐんなどが繰り返くりかえし掃討そうとう作戦さくせんを行おこなっていたということです。

フセインさんは一命いちめいはとりとめたものの、銃弾じゅうだんが背中せなかから腹部ふくぶを貫通かんつうし、4回かいにわたる手術しゅじゅつを受うけたうえ、その後そのご、ことばを発はっすることが難むずかしくなり、ふさぎこむようになったといいます。

父親ちちおやのアリさん（49）によりますと、銃撃じゅうげきされる前まえ、フセインさんは外そとでよく遊あそぶ活発かっぱつな子こでしたが、その後そのごは家いえにこもるだけの生活せいかつとなり、仕事しごとを見みつけることも友達ともだちをつくることもできなくなったということです。

フセインさんは「外そとに出でてもすぐ疲つかれてしまうから毎日まいにちずっと家いえにいる。私わたしの唯一ゆいいつの友ともだちは大好だいすきな父親ちちおやだけです」と話はなしていました。

父親ちちおやのアリさんはイラク政府せいふに対にたいして補償ほしょうを求もとめていますが、申し出もうしで期間きかんが過すぎているなどを理由りゆうに公的こうてきな支援しえんは一切いっさい受け取うけとることができていないということです。

アリさんは「息子むすこは人生じんせいを奪うばわれた。なぜ、10歳さいの子こどもが撃うたれなければならなかったのか。アメリカこそがテロリストだ。彼かれらはイラクを破壊はかいし、私わたしたち家族かぞくのささやかな幸しあわせすら奪うばっていった」などと訴うったえていました。

アメリカのエネルギー情報じょうほう局きょくによりますと、おととしのイラクの一いち日にち当あたりの石油せきゆ生産せいさん量りょうは、世界せかい第だい6位いで400万まんバレル余あまりに上のぼり、経済けいざい的てきな潜在せんざい能力のうりょくは高たかいとされています。

おととしには、フセイン政権せいけんが1990年ねんに侵攻しんこうしたクウェートに対にたいする524億おくドルの賠償ばいしょう金きんの支払しはらいを終おえ、およそ30年ねんにわたって続つづいてきた経済けいざい成長せいちょうの足あしかせを取り除とりのぞくこともできました。

世界せかい銀行ぎんこうによりますと、去年きょねんは原油げんゆ価格かかくの高騰こうとうなどを背景はいけいに、GDP＝国内こくない総そう生産せいさんの伸のび率りつは8.7％と高たかい成長せいちょう率りつを記録きろくしています。

実際じっさい、首都しゅとバグダッドでは高層こうそうビルの建設けんせつが進すすんでいて、海外かいがいの有名ブランドゆうめいぶらんどや飲食いんしょく店てんなどが入はいる巨大きょだいなショッピングモールも誕生たんじょうし、経済けいざい成長せいちょうの一端いったんもみてとれます。

一方いっぽうで、政治せいじや治安ちあんの混乱こんらんによりインフラの整備せいびは進すすんでおらず、深刻しんこくな電力でんりょく不足ふそくが続つづいているほか、失業しつぎょう率りつは16％を超こえるなど、経済けいざい成長せいちょうの恩恵おんけいは一部いちぶにとどまっていて、多おおくの市民しみんは厳きびしい生活せいかつを続つづけています。

50代だいの男性だんせいは「アメリカ侵攻しんこう当初とうしょは、独裁どくさい政権せいけんを倒たおしていい時代じだいになるという希望きぼうがあった。しかし、戦争せんそうはアメリカの利益りえきのために行おこなわれたもので、イラクのためではなく、この20年間ねんかんで生活せいかつは悪化あっかし続つづけている」と話はなしていました。

また、40代だいの女性じょせいは「アメリカ軍ぐんの侵攻しんこうに子こどもたちがひどくおびえていたのを覚おぼえている。アメリカはインフラを破壊はかいし、今いまも電気でんきすら満足まんぞくに使つかえない。彼かれらがイラクにもたらしたのは破壊はかいでしかない」と話はなしていました。

また、日本にっぽん政府せいふは、地元じもとの12万まん人にんの電力でんりょくを賄まかなうことができる火力かりょく発電はつでん所しょを建設けんせつし、2008年ねんにイラク側がわに引き渡ひきわたしました。

しかし、治安ちあんの悪化あっかや経済けいざいも混乱こんらんする中なか、修理しゅうりのための部品ぶひんが調達ちょうたつできず、4年ねん余あまりで発電はつでんを停止ていししました。

サマーワのあるムサンナ県けんでは別べつの発電はつでん所しょも稼働かどうしていますが、電力でんりょく需要じゅようが高たかまる夏場なつばは今いまも深刻しんこくな電力でんりょく不足ふそくが続つづいているということです。

発電はつでん所しょでは去年きょねんから復旧ふっきゅう作業さぎょうを本格ほんかく化かさせていて、数すうか月かげつ以内いないの稼働かどう再開さいかいを目指めざしているということです。

発電はつでん所しょの所長しょちょうは「とにかく資金しきんが必要ひつようです。支援しえんしてくれた日本にっぽんには感謝かんしゃしているし、使つかえなくなっていて申し訳もうしわけなくも思おもっている。早はやく修復しゅうふくを終おえたい」と話はなしていました。

JICAイラク事務所じむしょの米田よねだ元もと所長しょちょうは「日本にっぽんの協力きょうりょくによって状況じょうきょうが変かわっているというところを理解りかいしていただけるとありがたい。公共こうきょうサービスをしっかりとさせていくことによって国くにの安定あんてい化か、ひいては地域ちいきの安定あんてい化かにつながっていけばと思おもう」と話はなしています。

サマーワのあるムサンナ県けんの地元じもと当局とうきょくによりますと、人口じんこう90万まんのうち半数はんすう以上いじょうの50万まん人にんが貧困ひんこん状態じょうたいにあるということで、生活せいかつの改善かいぜんが引き続ひきつづき課題かだいとなっています。

サマーワの26歳さいの男性だんせいは「日本にっぽんはイラクに対にたいしてたくさんのことをしてくれました。今いままで日本にっぽんがイラクにしてくれたことは、目めで見みることができ、感謝かんしゃしています」と話はなしていました。

一方いっぽう、77歳さいの男性だんせいは「日本にっぽんが来きて会社かいしゃをつくるなど何なにかをしてほしい。日本にっぽんは支援しえんをしてくれたかもしれないが、私わたしたちは飢うえています。日本にっぽんが何なにかプロジェクトを提供ていきょうしてくれることを望のぞみます」と訴うったえていました。