「僕ぼくはいま本屋ほんやに勤つとめていて、当時とうじも（同おなじ）本屋ほんやに勤つとめていたので、当時とうじの揺ゆれや水みずを確保かくほするところから、お店みせを再建さいけんするまでの苦労くろうが思い出おもいだされる日ひです。同僚どうりょうとはこの日ひが来くると、苦労くろうした話題わだいをしながら、本ほんを届とどけるのが仕事しごとですから、淡々たんたんと仕事しごとをやっていくという感かんじです」

ふだん通どおりの静しずかな口調くちょうで言葉ことばが返かえってきました。

「僕ぼくは震災しんさいを伝つたえようという動機どうきから描えがいたわけではないですけど、生いきている人ひとの日常にちじょうを描えがこうとしていました。宮城みやぎ県けんに住すんでいますから、震災しんさいは自然しぜんと目めに映うつる。その中なかで描えがいてみました」

被災ひさい地ちに住すんでいるからこそ目めに映うつる被災ひさい地ちの現状げんじょう。それでも佐藤さとうさんは、震災しんさいをテーマに小説しょうせつを書かくことに難むずかしさを感かんじているといいます。その理由りゆうは、小説しょうせつはフィクション（虚構きょこう）ではあるが、実際じっさいに被災ひさい者しゃが読よんだ時ときにどう思おもわれるのかを考かんがえているからだというのです。「嘘うそだと言いわれるようなことがあってはいけない」ということ。虚構きょこうとリアルという矛盾むじゅんした考かんがえの間まで、被災ひさい者しゃを傷きずつけることがあってはならない。仙台せんだい市し出身しゅっしんの小説しょうせつ家かという立場たちばで、「震災しんさいを描えがかないという選択肢せんたくしはありえない」と断言だんげんしています。

「ある地点ちてんで電信柱でんしんばしらが新あたらしくなった。そこが境界きょうかいだった。海うみが人ひとの暮くらしを舐なめた形跡けいせき、生なまと死し、この世このよとあの世あのよの境目さかいめだった。」（「荒地あれちの家族かぞく」より）

こうした形かたちで被災ひさい地ちを表現ひょうげんした理由りゆうについて、次つぎのように話はなしていました。

「住宅じゅうたくがあったところが平たいらになって、なかなか当時とうじを思い出おもいだそうとしても、手てがかりすらない状況じょうきょうです。なんとかそこで今いまある景色けしきにしがみついて振り返ふりかえってみました」

震災しんさいから12年ねん、今回こんかい、佐藤さとうさんは、NHKの番組ばんぐみで被災ひさい地ちを回まわったり、犠牲ぎせい者しゃを悼いたむ人ひとたちを見みたりしました。佐藤さとうさんから見みた「12年ねんの被災ひさい地ち」は、どのように映うつったのか聞きくと次つぎのような言葉ことばが返かえってきました。

それでも、違ちがった印象いんしょうを持もったことも口くちにしました。

「小説しょうせつでは『荒地あれち』と表現ひょうげんしましたが、どうにか人ひとの営いとなみを立て直たてなおそうとしている人ひとがいるのを見みたり話はなしを聞きいたりして、そこには希望きぼうを持もちました。ひとりひとり置おかれた立場たちばや経験けいけんが違ちがう。苦くるしみというのはずっと抱かかえ続つづけている方ほうもいるので、12年ねんというのは区切くぎりではない。これからも目めの前まえにあることとして注視ちゅうししないといけないと思おもいました」

たとえ時間じかんが止とまっているように見みえても、時間じかんは経過けいかし、もがき続つづけている人ひとたちが今いまもいること。佐藤さとうさんが伝つたえたかった思おもいでした。

震災しんさいを思い出おもいだすこともつらいと感かんじる人ひとたちがいる中なかで、その記憶きおくを共有きょうゆうし、伝つたえ始はじめた若者わかものたちの姿すがたに、佐藤さとうさんが希望きぼうを感かんじていたように感かんじました。

小説しょうせつ家かとして発信はっしんを続つづけている佐藤さとうさん。震災しんさい12年ねんの報道ほうどうを見みて感かんじたことを聞ききました。

「震災しんさいから点てんで捉とらえるのではなく、いまでも苦くるしんでいる人ひとが引き続ひきつづきいるわけですから、長ながい時間じかん軸じくでとらえて、現時点げんじてんで振り返ふりかえってみて小説しょうせつで考かんがえてみた」

「報道ほうどうやノンフィクション、ドキュメンタリーで（伝つたえることが）できる部分ぶぶんと、小説しょうせつで、すくう部分ぶぶんはまた別べつだと思おもうんですけど、そこで重かさなる部分ぶぶんもあるし、双方そうほうで補完ほかんし合あいながら伝つたえていければいいと思おもいます」

そして最後さいごに、これから震災しんさいとどう向き合むきあっていくのか。佐藤さとうさんの答こたえです。