この買収ばいしゅうに伴ともなって、スイス金融きんゆう市場しじょう監督かんとく機構きこうは19日にち、「クレディ・スイス」が発行はっこうしていた「AT1債さい」と呼よばれる社債しゃさいが無む価値かちになると発表はっぴょうしました。

160億おくスイスフラン、日本にっぽん円えんにしておよそ2兆ちょう2000億おく円えんに相当そうとうします。

AT1債さいは、2008年ねんのリーマンショックで銀行ぎんこう救済きゅうさいに多額たがくの公的こうてき資金しきんが使つかわれた反省はんせいから銀行ぎんこうが自己じこ資本しほんの不足ふそくに備そなえて導入どうにゅうを進すすめたものです。

資本しほん不足ふそくに陥おちいった場合ばあいには自己じこ資本しほんに組み入くみいれることができます。

今回こんかい、金融きんゆう当局とうきょくはこの社債しゃさいを無む価値かちにして「クレディ・スイス」の自己じこ資本しほんを増ふやすとしています。

これを受うけて金融きんゆう市場しじょうでは、この社債しゃさいの損失そんしつが広ひろがることに警戒けいかい感かんが強つよまりました。

市場しじょう関係かんけい者しゃは「アジアで同おなじタイプの社債しゃさいを発行はっこうする金融きんゆう機関きかんの株式かぶしきを売うる動うごきが強つよまった」と話はなしており、市場しじょうは不安定ふあんていな状況じょうきょうが続つづいています。

各地かくちの代表だいひょう的てきな株価かぶか指数しすうの20日にちの終値おわりねは先週せんしゅう末まつと比くらべて

▼香港ほんこんで2.6％の大幅おおはばな下落げらくとなったほか、

▼オーストラリア・シドニーで1.3％、

▼シンガポールでも1.3％、

▼韓国かんこくでは0.6％、それぞれ下落げらくしました。

市場しじょう関係かんけい者しゃは「世界せかいの金融きんゆう当局とうきょくが投資とうし家かの不安ふあんを取り除とりのぞこうと相次あいついで対応たいおうを示しめしているが、クレディ・スイスが発行はっこうした一部いちぶの社債しゃさいが無む価値かちになると発表はっぴょうされたこともあり、リスクを避さけようとする動うごきが続つづいた」と話はなしています。

Q.なぜこうした事態じたいに至いたったのか。

A.先週せんしゅうの段階だんかいでは、スイスの中央ちゅうおう銀行ぎんこうがクレディ・スイスの資金繰しきんぐりを支援しえんすることを発表はっぴょうして、いったんはマーケットも落ち着おちついたように見みえたが、この週末しゅうまつにかけて資金しきんの流出りゅうしゅつが止とまらなかった。

それだけアメリカの銀行ぎんこうの相次あいつぐ破綻はたんなどをきっかけに、市場しじょうの不安ふあん心理しんりが高たかまっていた。

こうした資金しきんの流動りゅうどう性せいの危機ききは非常ひじょうに進行しんこうのスピードが速はやいのが特徴とくちょうで、銀行ぎんこうの経営けいえいが追い込おいこまれていった。

Q.なぜスイスの金融きんゆう当局とうきょくは、この週末しゅうまつに対応たいおうを急いそいだのか。

A.クレディ・スイスは、スイス国内こくないだけでなくグローバルな金融きんゆうスシテムにとっても影響えいきょう力りょくを持もつ金融きんゆう機関きかんだ。

無秩序むちつじょに経営けいえい破綻はたんとなれば、世界せかいの金融きんゆうシステムが一時いちじ停止ていしし、世界せかいで取り引とりひきが停止ていしするような大おおきなインパクトを持もつ可能かのう性せいもあった。

スイスの金融きんゆう当局とうきょくもグローバルな金融きんゆう危機ききの引き金ひきがねは引ひきたくないという思おもいで、最小さいしょう限げんに打撃だげきを抑おさえるためには秩序ちつじょだった再編さいへんが必要ひつようだった。

対策たいさくが取とられないまま金融きんゆう市場しじょうで今週こんしゅうの取り引とりひきが始はじまっていればかなりの混乱こんらんが予想よそうされていたので、短期間たんきかんでまとめなければいけないということで、金融きんゆう当局とうきょくも支援しえんして異例いれいの措置そちが取とられた。

Q.今回こんかいの買収ばいしゅうに伴ともなってクレディ・スイスが発行はっこうした「AT1債さい」と呼よばれる社債しゃさいの価値かちがゼロになると発表はっぴょうされたが、この影響えいきょうは？

A.一般いっぱん的てきに経営けいえい問題もんだいを抱かかえた金融きんゆう機関きかんが破綻はたんなどをした場合ばあいは、株式かぶしきを持もつ株主かぶぬしが、債券さいけんを持もつ投資とうし家かよりも先さきに損失そんしつを負担ふたんすることになる。

しかし、今回こんかいは、株主かぶぬしは必かならずしも負担ふたんがゼロとはならない一方いっぽう、AT1債さいを持もつ投資とうし家かはその価値かちがゼロとなり、全額ぜんがく負担ふたんという形かたちとなった。

これまでAT1債さいは、大手おおての金融きんゆう機関きかんが発行はっこうしているかぎりにおいては、現実げんじつに損失そんしつが発生はっせいすることはあまり意識いしきされてこなかったが、今回こんかいの措置そちで改あらためてリスクを伴ともなう債券さいけんだということが強つよく意識いしきされた。

その結果けっかとして、きょうのアジア市場しじょうでもこの債券さいけんをめぐって動揺どうようが生しょうじた。

今回こんかいは、短期間たんきかんで買収ばいしゅうをまとめなければいけないという異例いれいの措置そちとしてクレディ・スイスを買収ばいしゅうしやすくするようないくつかの条件じょうけん設定せっていが行おこなわれたので、やむをえなかった面めんはあると思おもうが、AT1債さいのリスクをめぐる市場しじょうの動揺どうようが金融きんゆうシステムに波及はきゅうしないかという点てんが、今回こんかいの買収ばいしゅうの副作用ふくさようとして心配しんぱいされる。

Q.日にち米べい欧おうの6つの中央ちゅうおう銀行ぎんこうが協調きょうちょうして市場しじょうへのドルの供給きょうきゅうを拡充かくじゅうすると発表はっぴょうしたねらいは。

A.国際こくさい金融きんゆうシステムではドルを中心ちゅうしんに取り引とりひきが行おこなわれており、リーマンショックの際さいには、各国かっこくの金融きんゆう機関きかんでドルが不足ふそくして混乱こんらんを招まねいた経験けいけんがある。

現在げんざいも金融きんゆう機関きかんの間まで不安ふあん心理しんりがまん延まんえんしている状況じょうきょうで非常ひじょうに慎重しんちょうになっているので、不安ふあんを和やわらげる必要ひつようががあった。

各国かっこくの中央ちゅうおう銀行ぎんこうが連携れんけいする形かたちで金融きんゆう機関きかんが必要ひつようとするだけのドルを十分じゅうぶんに供給きょうきゅうすると約束やくそくすることで、ドル不足ふそくによる危機ききは防ふせぎますという強つよいメッセージとなっている。

Q.金融きんゆう市場しじょうの混乱こんらんは収束しゅうそくするのか。

A.市場しじょうの不安ふあん心理しんりは完全かんぜんには払拭ふっしょく（ふっしょく）できていない。マーケットでは、今回こんかいのクレディ・スイスやアメリカで破綻はたんした銀行ぎんこうと同様どうようの経営けいえい問題もんだいを抱かかえた金融きんゆう機関きかんがほかにもないのか、リスクの再さい評価ひょうかが行おこなわれている状況じょうきょうで、今後こんごも同様どうようのことが起おきる可能かのう性せいは否定ひていできない。

欧米おうべいの金融きんゆう当局とうきょくは、インフレを抑制よくせいするために金融きんゆう引き締ひきしめを行おこなう一方いっぽうで、金融きんゆうシステムの安定あんていを維持いじするために市場しじょうでの流動りゅうどう性せいは潤沢じゅんたくに供給きょうきゅうするという難むずかしい対応たいおうを迫せまられており、しばらくは綱渡つなわたりの状況じょうきょうが続つづくと見みられる。

Q.日本にっぽん経済けいざいへの影響えいきょうは？

A.日本にっぽんの金融きんゆう機関きかんではアメリカのように特定とくていの分野ぶんやに預金よきんを依存いぞんするような特殊とくしゅなビジネスモデルは見みられない。

また急激きゅうげきな利上りあげが進すすんだ欧米おうべいと比くらべて、日本にっぽんでははるかに低てい水準すいじゅんに金利きんりが抑おさえられるなど、欧米おうべいの金融きんゆう機関きかんとは取り巻とりまく環境かんきょうが違ちがうので、欧米おうべいの金融きんゆう機関きかんのように資金しきん流出りゅうしゅつが起おきるリスクは低ひくいとみられる。

ただ欧米おうべいでの金融きんゆうシステムの混乱こんらんを通をつうじて、想定そうてい以上いじょうに世界せかい経済けいざいが減速げんそくして日本にっぽん経済けいざいに影響えいきょうがでるおそれもあり注視ちゅうしが必要ひつようだ。