事件が起きたのは1966年(昭和41年)。いまの静岡市清水区でみそ製造会社の専務の家が全焼し、焼け跡から一家4人が遺体で見つかりました。
裁判では無罪を主張しましたが、静岡地方裁判所は死刑を言い渡しました。 証拠が限られる中、決め手となったのが現場近くのみそタンクから発見された血痕のついたシャツなど「5点の衣類」です。
2審の東京高裁でも最高裁判所でも無罪の主張は退けられ、1980年(昭和55年)に死刑が確定。翌年、袴田さんの弁護団は再審を申し立てます。
この時点で申し立てからすでに27年が経過していました。 弁護団はすかさず2回目の再審請求を申し立てます。 9年前の2014年(平成26年)3月、静岡地裁はDNA鑑定などをもとに「5点の衣類」は袴田さんのものではないとして再審を認め、拘置所に収容されていた袴田さんを釈放する決定を出しました。 死刑囚の釈放が認められるのは初めてのことでした。
これに対し今度は弁護側が不服として最高裁判所に特別抗告。最高裁は2020年(令和2年)「審理が尽くされていない」として東京高裁に差し戻します。 そして今月13日、2回目の申し立てから15年を経て、東京高裁が改めて再審を認める決定を出しました。
検察が特別抗告を断念したことから東京高裁の判断が確定し、ついに袴田さんの裁判はやり直されることになりました。
先月、大阪高裁が再審を認める決定を出したいわゆる「日野町事件」は、39年前の1984年(昭和59年)に滋賀県日野町で起きた強盗殺人事件です。 無期懲役が確定した男性は服役中に75歳で死亡しています。 大阪高裁の決定を不服として検察が最高裁に特別抗告したため、審理はさらに長期化する見通しです。
再審に関する規定(再審法)は刑事訴訟法にある19の条文のみ。これらは大正時代から一度も改正されていません。 しかも手続きの進め方などが具体的に定められていないため、裁判官の裁量に委ねられているのが実情だと言われています。
通常の刑事裁判と違って明確なルールがないため、現状では裁判所が必要と判断した場合には検察に証拠の開示を命じます。 袴田さんのケースでも「5点の衣類」の写真などは2回目の再審請求の審理になって検察が新たに開示したものでした。 捜査機関がどのような証拠を持っているのか分からない中、“手探り”で争いを続けることで審理の長期化につながっているというのです。 もう1つ、長期化の大きな要因と指摘されているのが、裁判所が出した再審開始決定に対して不服を申し立てる「抗告」が認められていることです。 裁判所が再審開始を認めても、抗告が繰り返されれば審理が長引くため、日弁連=日本弁護士連合会は、仮に有罪を主張するのであればやり直しの裁判で行えばいいなどとして、検察官による抗告は禁止すべきだと訴えています。
京都府の大学生、石川愛麻さん(19)は、小学生のころテレビドラマをきっかけに弁護士の仕事に興味を抱き、高校生になるとえん罪事件について自分で調べるようになったといいます。
(石川愛麻さん) 「いろいろ調べていても気持ちのどこかで『えん罪はドラマの世界の話だ』という感覚でいました。しかし、実際にえん罪の被害に遭った人たちのお話を聞いて深刻な問題だと実感しました」
(石川さん) 「袴田さんは拘置所で毎朝、自分が殺されるかもしれないと思いながら過ごしていたと思います。そんな恐怖とずっと向き合っていたら、この世界から逃げたくもなるだろうと感じたし、袴田さんがそこまで追い込まれたことを社会として考える必要があると思いました」 石川さんたちは調べた成果を去年12月の弁護士会のシンポジウムで発表しました。
今月9日の話し合いでは「検察の抗告は、再審をするかしないかの段階で闘う権利を国家権力が奪っているような気がする」とか「裁判官によって進め方が異なるのは『再審ガチャ』みたいなものだと思う。手続きを定めた法律があれば良い」といった意見が出されていました。
(石川さん) 「私自身も『法律家ではない自分が何かしたところで意味がないのでは』と思っていましたが、この問題は法律家だけの問題ではないと気がつきました。私たち市民が声を上げないと法律は変わらないと思っています」
日弁連の再審法改正実現本部によりますと、ドイツでは1964年の法改正によって、再審開始決定に対する検察官の抗告が禁止されたほか、イギリスは政府から独立して再審事件を調査する公的機関を1995年に設置しました。 また、台湾も2015年以降、再審に関する法律をたびたび見直し、捜査段階で収集された証拠や記録を再審請求でも通常の裁判と同様に閲覧できるようになったほか、受刑者がDNA型鑑定を請求する手続きも明文化されたということです。
(鴨志田祐美弁護士) 「袴田さんのケースもそうですが、やり直しの裁判になる前の請求の段階でかなりの時間がかかっています。再審開始決定が出されても抗告によって審理が長引くのは制度の不備だと思いますし、再審無罪になった事件で『こんな証拠を隠していたのか』ということがあるのも事実です。間違いがあったときにどう向き合い、救済するかという点に軸足を置いた方が、国民の司法に対する信頼は得られると思います」
今月3日、齋藤法務大臣は記者会見で再審の課題や法改正について問われ「現時点において現行法の規定に直ちに手当てを必要とする不備があるとは認識していない」とした上で「いずれにしても再審制度のあり方は、確定判決による法的安定性の要請と、個々の事件における是正の必要性との調和点をどこに求めるかに関わるので、様々な角度から慎重に検討すべきものと考えている」と述べました。
(石川さん) 「ニュースを聞いた時、巌さんや姉のひで子さんたちが57年間あきらめなかったことが報われる嬉しさと、再審で闘う権利をもらうのにこんなに長い時間がかかったことへの悔しさで涙が出ました。今の法律のままだとえん罪被害者を救えないと思います。多くのえん罪被害者が公平に救われる社会に変わってほしいと思います」 袴田さんの1回目の再審請求からまもなく42年。やり直しの裁判が開かれるのはこれからです。
袴田巌さんの再審認める決定 東京高裁 証拠“ねつ造”疑い言及
「再審法」具体的な手続きは定めず
若者が考える「えん罪」と「再審」
諸外国は法改正の動き進む
請求から40年余を経て再審へ
再審請求に時間がかかるのは今回に限ったことではありません。
なぜ再審請求には時間がかかるのか。その要因として指摘されているのが「法制度の不備」です。
中でも課題だとされている1つが「証拠の開示」に関する具体的な規定がないことです。
「えん罪」や再審法の問題に関心を抱く若者もいます。
地元の弁護士会からの誘いを受け、ほかの大学生と一緒に実際の事件現場を訪れたり、再審で無罪が確定した人と面会したりもしました。
去年9月には静岡県を訪れ、袴田さんと姉のひで子さん、それに袴田さんを支援する人たちにも直接会って話を聞きました。
えん罪を防ぐために何が必要か、再審法の課題についても仲間と議論を重ねています。
石川さんは、多くの人に「我がこと」として関心を持って欲しいと考えています。
再審に関しては、諸外国でも法律や制度を見直す動きが広がっています。
えん罪が明らかになったことをきっかけに法律や制度を見直した国が多く、再審法改正実現本部で本部長代行を務める鴨志田祐美弁護士は、日本も法改正を急ぐべきだと訴えます。
一方、国はどう考えているのでしょうか。
今月20日、袴田さんの再審開始決定について検察が特別抗告を断念したことを知った石川さん。改めて法改正が必要だと感じたということです。
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【随時更新】ロシア ウクライナに軍事侵攻(3日の動き)
ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いています。ウクライナの各地でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を続けていて、大勢の市民が国外へ避難しています。戦闘の状況や関係各国の外交など、ウクライナ情勢をめぐる3日(日本時間)の動きを随時更新でお伝えします。(日本とウクライナ、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります)
Source: NHK
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【大雨被害まとめ】愛知 1人死亡 和歌山 行方不明者の捜索再開
台風や前線の影響で四国や東海で「線状降水帯」が相次いで発生するなど、非常に激しい雨が降り続いていて土砂災害や川の氾濫の危険性が高まっています。大雨の影響により各地で被害が出ています。
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Jun 3, 2023 00:06
SuicaやPASMO 無記名カード 8日から当面販売中止 半導体不足で
交通系ICカードのSuicaやPASMOの無記名で利用できるカードの販売が今月8日から当面、中止されます。世界的な半導体不足の影響でカードに必要なICチップの入手が困難になっていることが理由です。
Source: NHK
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1日夜、新潟県上越市の住宅の駐車場でこの家に住む62歳の男性が頭から血を流して倒れているのが見つかり、その後、死亡が確認されました。警察は殺人事件として現場から逃げた人物の行方を捜査しています。
Source: NHK
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将棋の藤井聡太六冠 名人戦制す 史上最年少 名人獲得 七冠達成
将棋の八大タイトルで最も歴史の古い「名人戦」の第5局で挑戦者の藤井聡太六冠(20)が渡辺明名人(39)に勝って4勝1敗とし、史上最年少で「名人」を獲得しました。さらに羽生善治九段(52)以来史上2人目の「七冠」達成となり、その最年少記録も更新しました。
Source: NHK
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“同じ部屋にいるだけで空気感染も” はしかの怖さは【6/1版】
国内で「はしか」の感染が広がりつつあります。はしかは同じ部屋にしばらくいるだけで空気感染し、発症すると重症化して命に関わることもあり、専門家は「侮ってはいけない病気だ」と警戒を呼びかけています。最新の感染状況、症状の特徴、感染が疑われる場合の対処法などについてまとめました。(6月1日現在)
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陸上日本選手権 女子1500m予選 田中希実 トップタイムで決勝へ
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Source: NHK
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来年春に卒業する大学生などを対象にした企業の採用面接は、政府のルールで6月1日開始となっています。ただ、人材不足を背景に採用活動を前倒しして行う企業も増え、大学生の内定率はすでに7割を超えています。
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