▽いずれも聴覚障害のある2組の夫婦と
▽先天性の脳性まひが原因で体に障害のある女性1人の合わせて5人は、
昭和30年代から40年代にかけて旧優生保護法に基づく不妊手術を強制され、子どもを産み育てる権利を奪われたなどとして、国に賠償を求める訴えを起こしました。
おととし、1審の神戸地方裁判所は、旧優生保護法を憲法違反としつつも、不妊手術から20年を過ぎての提訴に「賠償請求できる権利は消滅している」として訴えを退け、原告が控訴していました。
全国で起こされている同様の裁判では、去年2月に大阪高裁が今回とは別の裁判で初めて訴えを認めて以降、1件を除いて国に賠償を命じる司法判断が続き、今回が7件目で、2審の高裁段階ではすべて訴えを認めています。
原告の1人で聴覚に障害のある小林寳二さん(91)は、手話通訳を介して「この日を待っていた。正しい判決を出していただいて本当にうれしい。これで気持ちが落ち着いた」と話しました。 そのうえで、ともに裁判を起こし、去年6月に亡くなった妻の喜美子さんに結果を伝え、一緒に喜び合いたいと話していました。 また、同じく原告の1人で、先天性の脳性まひによる障害がある神戸市の鈴木由美さん(67)は、「いい判決で本当にうれしかった。私は普通に暮らしたいだけだったのに、障害があるから子どもが産めないようになった。体の傷は消えても、心の傷は消えない。国は早く謝罪して、悪かったと言ってほしい」と話していました。 原告弁護団の団長を務める藤原精吾弁護士は「国は争いをやめ、被害者とちゃんと面会して謝ることが出発点だ。被害は手術を受けた人だけではない。国は障害を持った人が負い目を持って生きる社会をつくってきた。優生保護の問題は終わっていない」と訴えていました。
訴えを起こしている兵庫県明石市の小林寳二さん(91)と、去年89歳で亡くなった妻の喜美子さんは、たくさんの子どもをもうけ、にぎやかで楽しい家庭を築くことが夢だったといいます。 1960年、ともに聴覚障害があった2人はお見合いで出会い、まもなくして結婚。 およそ3か月がたったころ、喜美子さんの妊娠が分かりました。 【“中絶手術を突然受けさせられた”詳しい説明なく】 しかし、直後に喜美子さんは病院に連れて行かれ、母親から「赤ちゃんが腐っている」と言われました。 そして詳しい説明が無いまま、突然中絶手術を受けさせられたと言います。 妊娠を知った寳二さんの母親が、喜美子さんの母親と相談して手術を受けさせていたのです。 小林寳二さんは「喜美子が家に帰ってきて、『どうしたんだ』と聞くと、『よくわからない』。おなかを見てみると、15センチほどの傷があった。『これは何だ?』と言っても、よく分からなかったんです。その後、母と会うと『子どもを産んではいけない』と言われてとても腹立たしく思いました。『何で産んではいけないんだ』と言っても、母は何も答えてくれませんでした。喜美子はただただ泣いていました」 【“強制的な不妊手術 発覚のきっかけは58年後”】 なぜ、喜美子さんは、手術を受けさせられたのか。 詳しい理由が分かったきっかけは、2018年に宮城県の60代の女性が旧優生保護法のもとで不妊手術を受けさせられ、子どもを産み育てる権利を奪われたとして、国に損害賠償を求める全国で初めての訴えを仙台地方裁判所に起こしたことでした。 喜美子さんは、自分も被害を受けたのではないかと思い、専門の医師に調べてもらったところ、不妊手術を受けさせられたとみられることが分かりました。 そしてその年、国に損害賠償を求める訴えを神戸地方裁判所に起こしました。 当時、喜美子さんは、決意を述べていました。 「裁判を通じて、社会が変わっていくことが大切です。訴えを起こした私たちだけの問題ではない。障害者全体の問題だとして、考えてもらえるように活動していきたい」 始まった裁判の意見陳述で、寳二さんは「手術からおよそ60年がたちましたが、悲しみは今も続いています。友人や知人に子どもがいるのを見ると、悲しくて、寂しくて、歯がゆい思いをします。こんな苦しみを与える差別は許せません」と訴えました。 【時間の壁が 神戸地裁 除斥期間の経過で訴えを棄却】 しかし、おととし、1審の神戸地裁は旧優生保護法を憲法違反としたうえで、不妊手術から20年以上がたっていて、賠償を求める権利のある期間の「除斥期間」が過ぎているとして訴えを退けました。 小林さん夫婦は控訴し、2審で改めて国の賠償責任を認めてほしいと求めていましたが、去年6月、喜美子さんは病気のため亡くなりました。 【“私の声は聞こえていますか”】 その5か月後、2審の大阪高等裁判所で行われた意見陳述で、寳二さんが訴えたことばです。 「妻とともに60年間、子どもを持てない悲しみと寂しさを抱えて過ごしてきたが、その妻も病気で亡くなり、深い悲しみに暮れている。裁判官の方、私の声は聞こえていますか。私の気持ちを理解して正しい判決をお願いします」 提訴からおよそ4年半がたち、原告5人のうち、喜美子さんを含め2人が亡くなっています。 寳二さんも最近、体調を崩すことが増えているということで、国は一刻も早く賠償責任を認めてほしいと願っています。
原告の1人「この日を待っていた 気持ちが落ち着いた」
厚生労働省「判決の内容を精査 適切に対応」
原告夫婦の思いは